第一回 くだらない話

第二回 馬に水を飲ませる話

□3 案外面白い受験雑誌□

  

  

みなさんは大学受験関係の情報はどういうところから得ているでしょうか。両親や先生、友達ということが多いと思います。最近では、インターネットからという人も多いでしょうね。

そういうものの中に、受験雑誌があります。受験全般を扱ったものでは『蛍雪時代』(旺文社)が古くから有名です。一般の書店でも売っていますし、進路指導室などで見たことがある人もあるかもしれません。

この雑誌は、いろいろと役に立つことが多いです。最近、「東大合格者のノート」なんていう題の本が売れていますが、この雑誌では毎年かならず(5月ごろ)特集されています。時期に合わせた学習プランや体験談、各大学の募集方式、募集人数の動向なども随時掲載されていて盛りだくさんです。

また大学での先端研究の話、時事問題や社会動向の話など、受験に留まらない、その先を見通した記事もあります。

ほかには、たとえば数学に特化した『大学への数学』(東京出版)なども知られていますね。この雑誌は文字通り受験数学に特化したないようですが、スタンダード演習、日々の演習と言った本筋以外にも、数学アラカルト、物理のページといった「先に進んだ」記事もありますし、環境の話題、各界で活躍している人たちの経験談なども興味深いものが多いです。

今回ご紹介するのは、『大学への数学』2008年12月号の巻頭言、池谷直士さんの「人生は下駄を履くまで分らない」という文章です。

池谷さんは今年39歳。脊髄性筋萎縮症という難病で、全身の筋肉が萎縮して呼吸することすら困難になるという先天性の病にかかっています。多くの方が幼児のうちに亡くなっているそうです。

現在池谷さんはカウンセリングを自宅で開業し、お母さんと、小児科医の奥さんと生まれたばかりの息子さんと暮らしているそうです。「自分の顔に蚊が一匹止まったって追い払うことさえできない」池谷さんが、「相談にやってくる人々の悲しみや苦しみ、悩みを追い払っている」のだそうです。

何度も肺炎を起こして死の淵を彷徨い、同じ病気で亡くなっていく友の死を見送るうちに、「生きていること、それ自体がどんなに素晴らしいことかを噛みしめられる自分」になれたといいます。

ひとことで書いていますが、すごいことですね。

そうした境遇にあって、女性に恋しても振られつづけたけれども「13度目の正直」で医大生でボランティアをしていた現在の奥さんに出会って結婚し、しかも子どもまで授かった。池谷さんは、「人生は生きてみなければ分りません。どんな境遇であれ、人生であれ、生ききる事の中にこそ、私の、あなたの真実があるのだと思います」、と言っています。

必死に生きていくことで、可能性が見つかり、そしてどんどん道が開けていく。そんなことを教えていただいた気がしました。

「昨日の自分」を、今日は少しでも乗り越える。今日の自分より、明日の自分はもう少し前に進んでいる。そんな生き方をする限り、道は開けつづけるのだな、としみじみ感じさせていただきました。

『大学への数学』にそんな話が載っているとは、意外に思われたのではないでしょうか。目標に向かってわき目も振らずに勉強することも必要ですが、そんな話を読んで人生を考えてみるのも時にはプラスになるのではないかと思います。

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